季節の詩

rita  

「ノウゼンカズラ」


ノウゼンカズラ
夏の日差しが結晶になった
みたいな花

ひとりきりで咲いていたよ

光を錯乱させるアスファルトに
影もなく 人影もなく
痛いも淋しいも知らず
ただ
生まれてきたことの喜びに
滾滾とほとばしっていたんだ
オレンジ色の滝は流れ出したよ

午後の炎熱を冷ますように

照り返し
いっそう鮮やかに

散り落ちていたんだ

「あめんぼう」


あめんぼうは
ロゴスの膜の上を
ひょうひょうと移動する
自由思想家なの
憧憬の空を足下に
軽快なリズムで
自在に輪を放つ姿

夕暮れの公園で
見とれていたよ
新しい色で
次々と塗られてくような
楽しさだった
でもね
身軽な体は
すこぶる果報だけど

みんなの愛情を
少しでも疑おうものなら
君だって
水中の空虚な深淵へ
堕っこちちゃうから



「トマトとなす」


プチトマトの鈴
シャラシャラ
陽光に撫でられて
鳴り出すよ
ほら 抱きしめられてる
早送りみたいな
夏の抱擁
気分上々だね
あっという間に
真っ赤っか
ナスの鐘
リンドンリンドン
この街には時々
お仕置きみたいな雨が降る
立ち止まり
見つめなおすとき
洗い流される罪
黒光りした体は
ピュアな祈りで
膨らんでくるよ



「百合」


百合のリボンで結んだら
なんでも
ギフトになっちゃうの
空を 風を
私の心を
贈りましょう

古いガードレールの傍らに
咲いていたなら

その錆も
プレゼント

神羅万象を
君に贈りましょう



「星の屑」


人の足止めをして
台風の
過ぎ去った後の
夜空は

綿菓子の
割り箸に集まるごとき
星の屑

ふんわりと心を満たす
甘い香り

仰ぎ見れば
ようよう頭上を
広がりゆき

腕を伸ばすほど
髪に体に降り注ぐ

わたしは
裸になっていたよ

身に付けていたものに
未練はなく
手に入れたものの
行方は知れず

開いた手の平から
胸の奥まで

うっとりと夜に満たされ
そこはかとなく
火照っていたよ



【・ダチュラ・】


ダチュラ※は裏道に座って 今宵も月光ぼっこ
空高く郡飛する雲達の眼差しを
マンホールから逆巻く水の行方を
街灯に伏在する虫の羽影を
重量にきしむタイヤの痕跡を
さやぐ夜の鼓動を 聴きながら
わずかに熱を帯びた 白い耳たぶから
ぬくぬくと体臭をただよわせて
わたしは隣に腰を掛けて手を伸ばした
それは魅惑的な曲線にふちどられた盃
夜の鼓動を濃縮した 生ぬるいジュース
過ぎるヘッドライトに乾杯したら
夜明けまで飲みすえましょうか


※ダチュラ・・・朝鮮アサガオのこと

【・夏の果て・】


夏の果てより
日差しを転がり落ちた蝉
愛を語るゼンマイが 切れてしまったの
イエローの御告を受けた桜の葉は
地に舞い降りる 手を振るように バイバイ

【・夕 立・】
ようやく頭上の空が目を覚ましたみたい
一筋の光が地上に差し込んだよ
雲は重たいまぶたを 風の流れに委ねて
西へ西へと まどろみを抱えて去っていった
先々でも時折 ぐずぐずと駄々こねて
喚き散らしてる様子だったけどね



【・朝 顔・】


朝ぼらけは 画用紙みたいな真っ白な空
端っこに潜んでる火の玉の妖気
察知した朝顔は ヒトデの形に口を突き出したの
炎帝の鐘が空をわたって届く頃
その赤い波動に揺さぶられ 始動した小さなパラボラは
雛鳥みたいに口を広げて 一心に希求する
ツルから身を乗り出して 首を反らして
夏の心拍に昼が舞踏してる頃
朝顔は 大きな声を上げていた
あー
今日の幸福でお腹いっぱい
たとえ露とはかない命と言われても お構いなしさ



【・ 蓮 ・】


アルマジロの甲冑みたいに
いかめしく 蓮の葉の集まっていること
水に浮いていながら
不自由な地面に立っている草木より ずっと重たいこと
沼は沈黙していて
ちょっとやそっとの風には動揺しない
慌ただしい蜻蛉たちにも乱されないの
蓮の前で様子を伺ってはずっと待ってるんだけど
扉はいっこうに開こうとしないんだ
わたしは身の程知らずなのかもしれないな
あそこはとてつもなく強力な磁場が働いているのかもしれないな
ドームの中に閉じ込められたプラズマが
少しだけ花として 輝きを放っている
釈迦の慈愛の光明のように
それにしても わたしの心は入っていけなかった
固く閉ざされたままで
蓮の鎧は だれかの心の形だったりするのかな